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good-bye, hi-lite.

恋とニコチン。

1.25

dialogue

窓際に抱いて連れていくと、ミツが窓ガラスを小さな手で叩く。

「この向こうにある風景をおまえは信じているのか?」
「信じる?」
「在る、ということをだ」
「さあどうだろう。判らない。存在していると思っていなければやってられないからね」
「ニエプス」
「何のことだ」
「ニエプス、」

ジョセフ・ニセフォール・ニエプス。石版画を捨て写真の発明に与した男だ。
石を捨て光に執着しつづけたために彼の絶望は始まったといえるかもしれない。
太陽で描くとはどういうことか。ミツよ、おまえには判るかい?
光の名を持つおまえになら、ニエプスの狂気じみた執念が理解できているのか。
彼はダゲールを恨みながら死んでいった。
発明の名誉と栄光を奪ったものとして?たぶんそうじゃない。
彼にとってダゲールは風景そのものの簒奪者として意識されていたのではないか。

「私にとってもすべては光なのだ。今日はもう眠りたい」
そう言ってミツは大声で泣き始めた。