8.6
風の中で、すべてがいっせいに動き出す。
現存在が遍く弱々しい震えをおびて、すでに私の眼では捉えることができない。
ミツの眼はおそらく未だ機械に近いのだろうと思う。
統覚から限りなく自由な野生の眼だ。
見るべきものなど何もないという恐ろしいほどの自由を、彼はどのように生きているか。
羨みと恐怖の半々の感情を私は抱いている。
そして、そのうっすらと透き通った皮膜のかかった眼球に映り込んだ空の青ほどうつくしいものを、かつて見たことがあっただろうかと思う。
ミツよ、その「どうしようもなく見てしまうまなざし」は、もうおまえの運命だ。
耐えた先になにがあるのか、きっと誰も知らない。
誰の手も届かないところまで、安易な理解なんて求めないで、おまえはおまえひとりで、
行ってしまえばいいと思う。そう思うよ。