6.1
ある朝、私とミツの目の前で、巣立ったばかりのちいさなちいさな小鳥が猫に喰い殺された。
からだのそこここに和毛が残り、まんまるい黒ボタンみたいな眼も横に広がったうすいくちばしも、ようやくヒナから脱したばかりの幼さを見せていた。
まだぜんぜんうまく飛べなかった。よろよろと羽ばたいては道のど真ん中に着地してからだを震わせて。
助けようとした私のてのひらからするりと逃げ出したその先で、小鳥はあっという間に猫の牙に喉元を刺し貫かれた。
私にはその時、小鳥の細くて弱い骨がぼきぼきと砕ける音まで聞こえたような気がする。
私の悲鳴とミツの泣き声が早朝の公園で鈍重なブレーキ音のように底に沈んだ。
私はミツを力一杯抱きしめて、膝の震えも止められないまま公園の階段をがくがく降りた。
「ねえどうしてだろうね。どうしてあんなに簡単に殺されたり死んじゃったりするんだろうね」
「わかんないよ」
「助けてあげられなかったね」
「うん」
「それはいけないことじゃないの? 今日初めてはばたいた小鳥のことは、誰もが救ってあげなきゃいけないんじゃないの?」
「そうだと思う」
「じゃあどうして? 猫はおなかがすいてたの?」
「かもしれない」
「おなかがすいてたらそんな小鳥を食べてもいいの?」
「いいんだ、たぶん」
「ウソ!」
「もういいよ、わかんないよ」
「思考放棄するな!」
「うるさーい!私はミツが猫に喰われなければいいよ!」
「そんなのだめだ!」
「だめかな」
「だめだよ! ミツは小鳥かもしれないよ!ミツは虫だし風だし木の葉だよ! ミツは猫かもしれないし、兎だし熊だし犬だし!」
「世界のすべてってこと?」
「そう!」
私は今日、世界のすべてを守る力が自分にないことに打ちひしがれて、ひどく疲れて、泣きながら眠った。ミツも泣きながら眠る。