good-bye, hi-lite.

恋とニコチン。

1.22

彼の眼球に最初に触れた光のことを思う。最初に聴いた雨音のこと、最初に頬を撫でた風のこと。
それらは少しも特別なものではなく、日々のありきたりな事象にすぎなかったはずだが、しかしおそらくそれらは「事件」だった。
まぶしさが痛みだということを彼は知ったのだ。雨は音楽であり、風は生きもののように暖かいことも。

「これは何か」と彼が言う。
「世界、だと思う。たぶん。だけどほんの一部なんだ。すまないことにね」
「これの全部が欲しいんだが」
「一部だけど、全部なんだよ、きっと」
「私の知っている暗いものをお前は知っているか」
「知らない。たぶん知っていたけど憶えていない」